グルジア、フランス、そしてモスクワを舞台に繰り広げられる細菌兵器SFサスペンス小説

「今日、細菌兵器はすでに使用されているそうであるが、近未来の新種の細菌の開発、使用は現実的な可能性である。この小説では、グルジア人のグループが新種の細菌を開発し、伝染病をを引き起こす。米国カリフォルニア州ラホヤの微生物学者、ロバート・クックがその犯人を突き止める。躍動するスリル感あふれる物語はフランス、モスクワ、そしてグルジア共和国を舞台に展開する。それらの地域の風景、音、そして味覚と共に、門外の読者の興味を引くには十分な科学的知識が織り込まれている。」

第1章

ジョセフ・カラシュヴィリはいつものように、日の出に起きた。彼は自分の二部屋ある小屋の窓から、近くの水平線上の草原と木々に目をやった。身を起こし、彼は朝の最初の太陽光線が、谷を隔てて15マイル(約25キロ)先のコーカサスの山々の頂に当たるのを見た。

彼は腹が減っていた。「食べ物だ。」、と彼は隣で目覚めかけていたマリアナのほうへ振り返って言った。マリアナは猫のように伸びをして、口を大きく開け、目を細く閉じ、両腕を頭上に伸ばして、濃い色をした木のベッドの骨組みを押した。

「自分で食べなさいよ。」、とマリアナは、愉快そうに答えた。彼女はベッドの端にほとんど届くまでつま先を伸ばし、ジョセフのほうを向き、彼の背中を平手でたたいた。

ジョセフは目をつぶってベッドの端に座った。彼はどうやって自分がここへ到着したのか、昨晩何をしたのかを考えた。「故郷だ。」、と彼は思った。「ついに故郷へ帰ってきた。」

思い起せば、 キエフ郊外の空港への長旅で一時間遅れた上に、旅客機に機械の故障が一つあったのが二つ、三つになったおかげで、さらに二時間遅れた。グルジア航空の評判は、信頼性があるというものではなかった。2時間半のフライトの後、グルジアの首都トビリシに着陸した。到着ゲートでは、家族が移動式タラップの向こう側に来ていた。彼の妹たち、母、そしてマリアナへの鞄一杯のプレゼントをかき集めながら、ジョセフは税関越しに手を振った。この前彼らに会ってから、あまりに長い歳月が経っていた。

皆は父のラーダ・ステーションワゴンに乗り込んだ。コーカサスの山々への2時間の道のりは、4レーンの高速道路に始まり、その後2レーンの道路をどんどん登っていった。一行は谷へ2度下り、山道を2度登り、ついに彼の谷、故郷の町、アクメタに到着した。

父は家まで車を進め、ジョセフ、彼の姉と妹、母イリーナ、彼の荷物、そしてマリアナを下ろした。妹のイローナはトビリシの学校のこと、新しい友人たちのこと、食べ物、着る物、男の子たち、初めての大都会での生活の興奮のことなどを、とめどなく話していた。ジョセフは自分が16歳のときに行なったことのすべてが非常に新鮮で、非常に印象的だったことを思い出しながら、楽しそうに聴いた。

姉のカタリナはあまり話なさかった。彼女は弟の髪をなでながら、時々、「ジョセフ、ジョセフ。帰ってきてくれて良かったわ。」、と言った。

ジョセフは母、父、姉、妹と話した。けれども、彼の目はずっとマリアナにあった。

ジョセフとマリアナは、アクメタの外れにあるジョセフの家で夕食をとった。ジョセフはウクライナの話、研究所の同僚たち、そしてウクライナでの奇妙なことや面白いことの話をした。母は終始微笑んでは割って入り、もう一つ梨を食べなかったのかとか、もう一杯ザジキ(訳者註: ニンニク風味のヨーグルト、ギリシャの前菜)を食べなかったのかと聞いた。

ジョセフは家族との夕食の匂い、混沌、音、そして暖かさを大いに楽しんだ。空気はグルジアの香辛料、にんにく、コリアンダー葉、セイボリー、ミント、胡椒の香りに満ちていた。食堂は様々な模様、レース、花瓶敷き、彫像、骨董品などの寄せ集めと、壁にかけたキリストとスターリンの絵で、ごちゃごちゃしていた。テーブルの上には水、ワイン、タフナ(訳者註: アルコール分40%の飲料)、そして自家製の梨のシュナップス(訳者註: アルコール分の強い辛口の蒸留酒)があった。ジョセフがウクライナでの生活の話を続ける間、父はジョセフのグラスを満たし続けた。

真夜中になり、ジョセフはテーブルから立ち上がり、母と父にキスして、マリアナを家に連れて帰らなければならないと言った。彼はカタリナに、「僕、明日の朝まで帰らないよ。」、と囁いた。「それなら、あんたたちがどんなふうにいってるか教えてね。」、とカタリナは秘密を楽しみながら、にこりとして賛成した。ジョセフはマリアナを、村のずっと上空にある家族の狩猟用の小屋へ連れていった。彼らが眠りについたのは朝の4時だった。

マリアナはジョセフの背中に向かって言った。「ウクライナの女性たちはあなたを健康にしといてくれてるのね、ジョセフ。」

「彼女たちはただのお遊びだよ、マリアナ。」、とジョセフはからかった。「僕は本当の女性と一緒にいるためにグルジアに帰ってこなくちゃならなかった。」

ジョセフは向き直り、マリアナの背中をたたいた。

彼女は目に笑みを浮かべた。「ウクライナのアレクサンドラだのナタリヤだののおかげで、あなたのグルジアの女を忘れるかと思ったわ、ジョセフ。」

ジョセフはマリアナの顔を両手にとり、情熱的に長いキスをした。彼らがベッドから出てくる前に、太陽は高く上っていた。

「おい、食べ物をくれ。」、とジョセフはねだった。マリアナはラーダのトランクに梨、農家の作った新鮮なチーズ、そしてその地域の皮の厚い田舎風パンを詰め込んでおいた。彼女は素朴なキッチンの中をひっかき回して探し、水を温めるためのやかん、そしていくばくかのお茶を見つけた。数分のうちに簡単な食卓が整った。

お茶を飲みながら、ジョセフは彼女に、ウクライナでの生活、研究所での仕事、そして彼の計画のことを話した。ジョセフは、キエフ大学で微生物学を学ぶための入学許可が下りる前に、トビリシで生物学を学んでいた。彼は黄色ブドウ球菌の遺伝子発現についての研究で、優等賞を受賞した。

がっしりした大男のジョセフは、キエフで簡単に友達をができた。彼はトビリシでアイスホッケーをしていたが、研究に次第に多くの時間をとられるまでは、キエフのチームでも引き続き活躍していた。彼がキエフへ引っ越したあとも、トビリシでのチームメートたちの多くは、依然として彼の友人であり続けた。

実際、彼の最も親しい友人の一人、パータ・アクメタリはパリへ引っ越していった。パータが再びトビリシの旧友にコンタクトしてきたのは、ジョセフがキエフ大学で仕事をしていたときのことだった。パータはある晩、ジョセフに電話をかけてきた。

「ジョセフ、またお前の声が聞けて嬉しいよ。お前の小さな虫たちとの仕事は、前にもまして忙しいかい?」

パータは日頃ジョセフに、そんな大男がバクテリアで作業することに喜びを見いだしていることついて、冗談を言ったものだ。

「パータ、君は今もパリの女たちにちょっかいを出してるのか? どうしたんだ、グルジアの女はお前の好みには情熱的過ぎるってのかい?」

ジョセフは、パータが気の利いた答えを探して戸惑っているのを感じた。「いや、ここのギャルたちに、グルジアの情熱を教えてやってるだけだよ。」、とパータは笑った。

「マジでだ、君。故郷や愛する者たちからそんなに遠くにいる理由は何なんだ? 妹のカタリナが、しょっちゅう君のことを聞くよ。」、とジョセフは聞いた。

「それは電話では話せないよ、お前。でも、そのことは会ったときに話したいと思うんだ。」

「なぜだ? グルジアに帰ってくるつもりか、古犬よ。」

「いいや。でも、俺の仲間が喜んで金を出して、お前を2、3日パリに呼ぶぞ。」

これにはジョセフはかなり驚いた。パリ。彼はパリについて読んだことはあった。そこへ行ったきた友人もいた。けれどもジョセフは旧ソビエト連邦の外へ出たことはなかった...4年前のヘルシンキでの微生物学のセミナーを数に入れなければの話だが。ジョセフはそれは、かの帝国の外への旅行としては数えていなかった。

「パータ、どういう意味だ? 僕がここでどんなに忙しいか、知ってるのか?」

「ああ、ジョセフ。君の教授が、君ははかり知れないほど貴重だって言ってる。」

ジョセフはまたしても驚いた。彼のグルジア人の教授を、パータが知っていたのは本当だ。けれどもジョセフは、パータが最近教授と連絡をとっていたとは知らなかった。パータ・アクメタリは彼について調査していたとでもいうのだろうか?

パータはジョセフに、自分がわくわくするようなプロジェクトで仕事をしていること、ジョセフが「非常に面白い」、と思うようなことをやっていることを説明した。彼はジョセフに、2~3日仕事を置いて、パリにいる旧友を訪ねて来ないかと強く勧めた。ジョセフはパータに再び会いたかったし、もちろんパリへは行きたかったが、彼の気持ちは引き裂かれた。パータ・アクメタリが今、どんなグループと一緒にいるのか、彼は知らなかった。彼らは数年前、それぞれに博士過程を終えて以来、音信が途絶えていたから。

ジョセフは躊躇した。「パータ、キエフにいる僕の教授に確認させてくれ。もし行けることになったら、電話するよ。」

ジョセフは教授に確認をとり、教授がその旅行について熱心であることに驚いた。「君は彼らの仕事を非常に面白いと思うだろう。」、と教授は彼に言った。ジョセフ・カラシュヴィリは、自分の教授がアクメタリのチームがやっている仕事についてそんなによく知っていたとは、初耳だった。

4日後、ジョセフはグルジア航空に乗って、シャルル・ド・ゴール空港に到着した。パータは、20万キロ以上も乗り古された大型の古いBMWで彼を出迎えた。それは古いレザーと、小さな空間の中であまりにたくさん吸われた強烈なゴロワーズ・タバコの匂いがしていた。「この車は僕と同じくらい古いぞ。」、とジョセフは友に向かって微笑みながら言った。

「そうでもないぜ。見かけは古いかも知れないが、エンジンが強力で、スポーツカーみたいに走るんだぞ。」、とパータは言った。「スピードがいつ役に立つか、わからんからな。」

到着ターミナルから道路をらせん状に降りていきながら、パータは言った。「ジョセフ、友よ。お前が来れてとても嬉しいよ。今だから言うが、お前が来れるとはまったく思わなかったよ。」

「僕もだよ、君。教授が勧めたんだよ。君がここで何をやってるのかも言わずにな。教授は、僕がそれを面白いと思うだろうって言ってた。それに金にもなるって。」、とジョセフはつけ加えた。

パータはうなずいた。「金になるって? そうさ、ジョセフ。でもそれだけじゃない。そのおかげで俺たち、利権目当てのでっち上げ反政府派の奴らに、目にもの見せてやるチャンスがあるんだ。」

パータはこう言うとき、ジョセフの到着以来、初めて本当の情熱を見せた。反政府派。反政府勢力。2016年、グルジア共和国で戦われた、短かい間だったが血なまぐさい戦争で、反政府軍は正当な政権を残忍な仕方で打ち負かした。当時、ジョセフはまだ15歳だった。彼は戦うには若すぎたが、その戦闘で叔父と兄を失った。その間、世界は反政府軍への介入は不可能だったか、もしくはその意思がなく、傍観していた。

パータは昼下がりの交通の中をす早く運転して、空港から自動車道を南へ向かい、凱旋門でパリの周囲を巡る環状高速道路、ブールバード・ペリフェリックに乗り、市の南西へと向かった。彼はA13出口で高速を降り、続いてパリの西側郊外をランブレットへ、それからベルサイユの西15分のところにある谷と森とが網状に連なったシュヴルーズへと向かった。パータは国道を走り続け、ウサギ小屋福祉アパート住宅を過ぎ、割引家具の倉庫、ガソリンスタンド、ショッピングセンター、そして地域のお金を節約したい忙しいセールスマンのための、道路わきに建つ一つ星の安ホテルを過ぎた。パータは車両置き場を走り過ぎてハイウェイを降り、鉄道線路の上の橋を渡った。

車両置き場を過ぎると、道路は広い森を通り抜けた。野原へ出ると、さらに森があった。彼らはシュブルーズの森が始まる地点から5マイル(約8キロ)ほど離れたところにある草原に建つ小さな村、ロドンへと走り続けた。

パータは市役所を過ぎ、公会堂、ベーカリー、10世紀の教会、そして数件の家を走り過ぎた。彼は横道へ入り、高い石の塀と大きな金属製の門を過ぎ、右折して小さな袋路地へ入った。3軒目の家のところでパータは車を止めて降り、大きな緑色の金属製の門の鍵を開けた。パータがドアを押し開けると、ジョセフには、屋根より高くそびえる木々に囲まれた古い2階建ての農家が見えた。白い石細工は、その家が1800年代半ばに建てられたことを示していたが、明らかに納屋もしくは馬屋から住居へと改築された模様で、モダンな屋根と、前方にはい大きなフランス窓とドアがいくつかあった。パータが車のドアを開けると、庭はジャスミンとバラの豊かな香りに満ちていた。

「俺たちの研究所へよく来てくれた。」、とパータは言い、車の中へ戻り、家のわきへと車を進めた。

ジョセフは降りて彼の鞄をとり、正面玄関の小さなドアへと歩いていった。入るとそこは小さなキッチンだった。

「ジョセフ、トビリシ・ウエストへよく来てくれた!」、とふさふさした大きな顎鬚を生やした男が、ジョセフの頬にキスをあびせた。エフゲニー・ガイダーはアクメタの学校時代の旧友だった。彼は15歳のとき以来、ヘビー級でレスリングをしていた、グルジア国中で有名なレスラーだった。ジョセフは卒業後、エフゲニーとは音信が途絶えていた。彼はモスクワへ、それからキエフへと勉強に行ったが、エフゲニーはソチへ勉強に行ったと聞いていた。

「エフゲニー、どこにいたんだい? 前アクメタ中学で一緒だったとき以来、随分になるなあ。」、とジョセフは言った。

エフゲニーはジョセフをキッチンの端のテーブルへ連れていった。そこにはグルジアのタフナ(訳者註: アルコール分40%の飲料)のラベルのついていないボトルと、3つのショットグラスが置かれていた。

エフゲニーは友に、ボトルを空中へ持ち上げて見せた。「いいかい、これは本物のタフナだよ。キエフにあるくさいブランド物の残り物とは違うよ。僕の兄の近所の人が、トビリシの自分の仕事小屋でこしらえたんだが、その人は自分の友達にだけ分け与えるんだ。飲みたまえ! 君の健康、僕らの成功、そして僕らの愛するグルジア共和国のために乾杯!」

ジョセフはグラスに手を伸ばすとき、エフゲニーの目をじっと覗き込み、その透明なグルジアの飲み物を一気に飲み干す間、視線をそらさなかった。彼は空のグラスをエフゲニーにかかげ、同郷の友人と同時に、グラスをバンとテーブルの上に置いた。「愛しのグルジアのために!」、と彼は言った。「僕らの独立がすぐに取り戻せますように。」、とジョセフは囁いた。

「こっちへ来たまえ。こんなに遠くのフランスのこの小さな村まで、君を連れてきた理由をお見せしよう。」

エフゲニーはジョセフとパータを、キッチンを通り抜け、小さなリビング・エリアを過ぎて、狭い階段へと続くドアの前へと連れていった。ジョセフは、塗装していない階段が、長年の昇り降りで磨り減っているのに気づいた。階段の底には小さな部屋があり、それは3人の大柄の男、テーブル、簡素な木の椅子、そして小さな土壁に沿って置かれた本箱がやっと入る大きさだった。一個のはだか電球がその空間を照らしていた。湿った土の匂いがしていた。

ジョセフはがっかりした表情を見せた。エフゲニーは微笑んだ。彼が仰々しく本箱を横へ引くと、本箱は見えないレールに沿ってスライドし、その後ろにもう一つのドアが現われた。エフゲニーがそのドアを開けたとき、ジョセフの目の前にあったのは、30フィート(約9メートル)四方ほどの、彼らの上にある家全体よりもはるかに大きい白い壁の実験室だった。若い女性と顎鬚を生やした男が実験用の白衣を着て、二人とも20代半ばと見えたが、それぞれ別の作業台のところにに立っていた。三人が実験室に入ると、女性がしばし顕微鏡から目を上げた。

そこにある装置を見て、ジョセフは即座にそれがどのような実験室なのかわかった。彼は遠心分離機、細菌培養器、そしてお湯の入った容器などといった、作業台の上の実験用の標準装置をしげしげと眺めた。部屋の四隅には、DNA合成装置、自動鑑定器、そして加速細菌培養機といった、もっと風変わりな装置類があるのが目に留まった。一方の隅には、3次元有機合成装置、そしてレーザー・ホログラフィー検出装置があった。すべてが最新式というわけではなかったが、その実験室が、トップクラスの微生物学実験と合成作業を行うのに十分であることは、ジョセフには即座に明らかだった。

「どうやってやったんだ、パータ?」、とジョセフは聞いた。「これは装置だけでも、少なくとも、えーと、70万ドル(約8千万円)はかかったはずだ。」

「もっとたくさんかかったぞ、お前。ずっとたくさんだ。俺たちの仕事は、おわかりのとおり、その性質からして、気軽にOSI(訳者註: フランスの実験室用品販売会社)に電話してカタログから注文するというわけにはいかないんだよ。俺たちはもっと、何と言うか、間接的なルートから買ったんだ。」

パータは明らかに自分の実験室に誇りを持っていた。そしてジョセフの第一印象にも、非常に喜んでいた。

ジョセフは好奇心をそそられたが、友人たちがこの秘密の実験室で何の仕事をしているのか、すでに考え始めていた。三人はみな、同じ街で生まれ育った。三人はみな、利権目当ての外国勢力のグルジア領内への継続的な侵入により、叔父、兄弟、もしくは他の家族を失っていた。グルジアに対するクーデター以来の、明らかに不当な外国の利権主義者に後押しされた反政府派による支配に、皆はいら立っていた。グルジアは今では「合同共和国」と呼ばれ、西側利権主義者がひもを引くたびに踊る傀儡政権によって支配されていた。名目上は独立していたが、グルジアは事実上、利権主義者たちによって支配されていた。

短い戦争のあと、長いゲリラ活動が始まった。ジョセフの叔父は、スクミ付近の戦闘で、反政府軍に捕えられた。それは16年前のことだった。生き延びた彼の同士たちが戻ってきて、ジョセフの祖母に、叔父が殺害されたことを伝えた。何年も経ってから、ある者がジョセフに、実は叔父は反政府軍の指揮官により連れ去られ、反政府軍参謀本部情報局によって2日間拷問されたと言った。その後、彼らは叔父を反政府軍に引き渡して殺させた。叔父の遺体は、彼の妻と家族が引き取ってきちんとした埋葬を行うことを許可されるまで、反政府軍の駐屯地の外に一週間横たわっていた。

ジョセフは16年前、ユーリー叔父の死を告げに父がやってきた夜のことを思い出した。当時、彼はまだ15歳だった。彼は、自分の師であり、友人であり、困難な時の強さの源であったユーリーが死んだことが信じられなかった。父は涙を浮かべていたが、ジョセフは当時、そのニュースをむしろ淡々と受け止めた。「お父さん、僕は叔父さんを殺した奴を殺してやる。」、とジョセフは冷たく言った。「約束するよ。」、とジョセフは父に言った。ジョセフはその約束を決して忘れなかった。

ジョセフの兄は、コーカサスにいるグルジアの政府軍グループに加わるために家を出た。兄がどのように死んだのか定かではなかったが、戦闘のさ中、国民軍の一団が、グルジアの裏切り者によって反政府軍に引き渡されたと聞いていた。ジョセフは、反政府軍の特殊部隊がある晩忍び込み、彼の兄と他の人々を虐殺したところを想像した。ジョセフが最後に兄に会ったのは、10年前のことだった。

グルジア共和国を抑えて以来、憎まれっ子の利権主義者たちは、自分たちの息のかかった人間を国内の権力の座に据えた。彼らはグルジアの会社を金の力で乗っ取り、その他の商業活動などは重税により倒産させた。さらに悪いことには、タジク人、カザーク人などのイスラム教徒、利権におもねる者たち、そしてグルジア系アメリカ人を、ジョセフの国の権力の座につけた。ジョセフは、生来のグルジア人たちと同様、キリスト教信者であった。グルジア人たちは、初期に正教会のキリスト教に改修していた。彼らは自分たちの宗教を、自分たちのアイデンティティの重要な部分とみなしていた。グルジアのキリスト教によりグルジア人たちは定義づけられ、グルジアを3方向で取り囲んでいたイスラム教とキリスト教の共和国、そしてトルコと区別されていた。

ジョセフのグルジアの祖先は、1000年前に、中央アジアのイスラム教徒の遊牧民たちと戦った。すべての善良なグルジア人たちと同様、ジョセフはイスラム教徒たちによる暴虐についての物語を聞いて育った。利権勢力がキリスト教信者でない者たちや、外国人たちを政府の要職につかせたという事実は、グルジアの愛国者を自称する者たちの怒りをかった。それはまた、利権勢力の抑圧者たちに対する生粋のグルジア人たちの憎しみを燃え立たせた。

500万人の市民たちだけでは、グルジアは自分たちの抑圧者たちに直接には太刀打ちできなかった。西側諸国の背後にいる彼らの敵は、兵力が人数の点では彼らの30倍もあった。グルジア人たちは、限られた中にも共和国の地位の継続を保証するために、もっと巧妙な方法を追求しなければならなかった。グルジア人の家族たちは、最も優秀な息子たちを、科学やビジネスを学ばせるためにモスクワやキエフへ送った。グルジア人学生たちは勉強家として知られ、また、望むものを手に入れるための強固な執拗さによっても知られていた。スターリンはグルジア人であり、グルジア人たちはすべて、彼のようなエネルギーと冷酷さを共有していた。グルジア人たちは少数派であったにもかかわらず、ロシア人の生活に多大な影響を及ぼした。彼らは科学、政治、通商において際立った業績を上げていたが、特にグルジア・マフィアを通じての地下経済の繁栄は著しかった。

グルジア・マフィアは、新生ロシア連邦のいくつかの犯罪組織の中でも、最も組織力があり、最も冷酷な組織の一つとして知られていた。自国のやくざ者のグループを通して、グルジア人たちはタバコや酒の販売、果物業者、レストラン、そして港湾都市においては港湾労働者の組合から、見かじめ料をとっていた。グルジア人たちは、チェチェンの執行官たちの協力によって、ロシアでの通商の多くの領域で稼いだ新生ルーブルの一部を得ていた。

多くの犯罪組織と同様、グルジア・マフィアの構成員は非常に愛国的だった。彼らは利権勢力からの利益によって存続していたが、利権勢力を軽蔑していた。グルジア・マフィアのリーダーたちは、愛国的なグルジア人たちの地下組織にとって、主な財政的援助の出所であった。彼らの金とコネとが、圧倒的な勝敗確率に抗しての愛国者たちの闘争を支援する源となっていた。ジョセフの叔父と兄はマフィアと直接関係してはいなかったが、マフィアによって購入された武器を使って戦闘を行った。ジョセフの家族や友人たちは、グルジア・マフィアを利権主義者たちに対する重要な防波堤と見なしていた。

ジョセフは、自分の友人たちがグルジア・マフィアの仲間であったことを知っていた。彼はまた、この高価な実験室が、マフィアの金によって資金供給を受けたに違いないことも、即座に理解した。

「パータ、この実験室で何をやってるのか教えてくれ。」、とジョセフは言った。パータとエフゲニーは2時間かけて、プロジェクトをこの友人に説明した。ジョセフは時々質問をし、ノートを取りながら注意深く聞いた。その内容は彼の興味をさらにかき立てた。ジョセフは、彼らの説明が科学的に興味深いと思った。それにもましてジョセフは、彼らの計画は、自分たちの非常に強力な敵、愛するグルジアを取り囲む敵と戦う巧妙な方法であると考えた。

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